TRICK×LOGIC
言わずと知れたノベルゲー界の大御所「チュンソフト」がひっそりと世に放った革新的ADV。パッケージにでかでかと書いてある通り、著名な作家陣の手掛けた本格ミステリーが売りの推理ゲーである。
そう、推理。
このTRICK×LOGICは推理を楽しむゲームなのだ。
そんなもん他に山ほどあるわい!と思われるかもしれないが本作は一味違う。
その内容・ゲーム性については個性的なキャラの魅力や独特の世界観に頼りがちなジャンルにあって恐ろしいまでにストロングスタイルである。
右側のヤマさん(CVデーモン小暮閣下)のような無駄に濃ゆいキャラはいるけどね。
さて、どのあたりが他と違うのかというと、まずは標準的な推理ゲーにほぼほぼ存在するであろう操作パート(証拠品集めたり人と話したりするやつ)がない。
替わりにあるのが読書パートだ。
主人公は未解決事件を記録した書物「アカシャ」を読み、そこに書かれた内容のみで事件を推理し解決しなければならない。
という設定そのままに、プレイヤーも短編小説ほどあるだろう「アカシャ」を熟読することになるのだが、
こちら余分な要素はない、素の「文章」である。
選択肢が出て分岐が生じるなど一切なし!
背景は静止画、BGMも静かな曲調のものでとにかく動きというものがない。
我々にできることはと言えば読み進めることだけである。このゲームは9割方このパートなので実質電子書籍と言えよう。
推理から解決までの流れも独特で、文章中に色違いで表示されている一部の「キーワード」を抜き出し、組み合わせることで疑問や矛盾点が「ナゾ」として生成される。
それを解決しうるキーワードとさらに組み合わせることで現れる結論「ヒラメキ」を得て事件の調書を完成させ、検証・解説をもって事件解決とするというものなのだが、これがシステム的にかなり『ガチ』なものであり非常に難易度が高い。
※他に例のない特殊なシステムなのでちゃんと理解したい方は体験版がDL無料なのでプレイしてみることをおすすめします。
たとえば、『壊れた鍵』というキーワードに注目したとしよう。それを他のものと組み合わせると、
A「犯人は道具を使って鍵を壊した?」
B「犯人は素手で鍵を壊した?」
C「鍵はもともと壊れていた?」
と新たに複数の「ナゾ」が浮かび上がってくる。
この時点で「どれだよ?」と悩むことになるのだが、そのどれもが解決に繋がらないノイズだったりする。さらにはありそうなものがミスリードで正解とは違う場所に推理を連れていかれたりと、とにかくいやらしい。
総当たりや適当択は効率が悪いので自然と自分の頭で考えることになる作りは推理ゲーとして秀逸の一言だ。
一応、行詰まった時のために救済措置は用意されているのだが、使用するとクリア時の評価は地に落ちる。人気ミステリ作家からの挑戦状とされている本作でそのような降伏宣言をプライドの高いミステリー好き(偏見)が容易にできるわけもなく、歯ぎしりしながら謎に向き合い頭を抱えることになるのだった。
そうした苦労のかいもあり、事件の核心に辿りついた時の高揚感は凄まじいものがある。推理小説を読むが自力で解いたことはない、他ゲーの謎解きでは充足感がなかった僕は記憶を消してもう一度やり直したいぐらいには新鮮で面白かった。
特に、事件ファイルNo3『雪降る女子寮にて』とNo4『切断された五つの首』は素晴らしい出来で、推理をする楽しさ、真相に気づいた瞬間の心地よさ、ともに最高潮。ここだけでもプレイしてもらいたい。
とは言ったものの万人に勧められるゲームではない
革新的なシステム!推理する楽しみ!と好意的に紹介してきたが不満点はないのかと聞かれると、それはもうべらぼうにある。
調書を完成させることでクリアという仕様上トリックが解けていても必要な「ナゾ」や「ヒラメキ」を見つけなければならないのだが、これが実にだるい!
特に後半のシナリオは文章自体も長い上にキーワードも無数にあり地獄の作業である。
また、解決しても犯人の詳細な動機やバックグラウンドは語られないのでもやもや感が凄い。名探偵コ〇ンがわざわざEDを挟んで犯行に及んだ理由をナレーションしてくれるのはありがたいことだと気づくだろう。
その他、主人公の声優の棒読み演技や一部トリックの無茶っぷりなど細かい批判点も多い。
細かいことに拘らない自信があるならおすすめ
新感覚の謎解きを楽しめるという一点だけでも推せる作品ではあるのだが、決して大衆向けではないし推理入門用としてもハードルが高すぎる感はある。
どちらかというと推理ゲーやり過ぎて飽きてきた、ぐらいの方におすすめしたい。
あと、ジャンル的にはノベルゲーになってはいるのだが、ストーリー的な面には毛ほども期待はするなと強く言っておく。
とりあえず興味がわいたなら体験版をプレイしてみるのが無難でしょう。
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