この回想録はかたり様作CoCシナリオ『満員電車からの脱出』のセッションを編集したものです。シナリオはhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9676240からお借りしました。動画はこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=VGiT5IOoN50
登場人物紹介
米本 康太朗(よねもと こうたろう)
金融系の会社に勤める新卒サラリーマン。
レンシュンマオ
日本の文化とパンダが大好きな中国人の女の子。日本で料理店を開く夢のため、日々バイトを頑張る20歳。節棍の達人。
小柴 朱里(こしば あかり)
居酒屋でバイトしながら歌手になる夢を追う23歳。残念ながら歌唱力は低い。
モギ モギコ
男の子だけど女の子。仮面ライダーになることを夢見ていたが現実にはいないことを知り、自分探しの旅に。バックパッカー。
小田井 桐(おだい きり)
医者を目指してる引きこもりのイキリオタク。
満員電車からの脱出
季節は夏の夕方。冷房が効いている電車内は乗客がぎゅうぎゅうとすし詰めになっていて暑いぐらいだった。近くで夏祭りがあったのか浴衣姿の人がチラホラと見える。
早く駅に着かないものか。身動きの取れない米本は空想に耽り時が経つのを待つ。もうすぐ電車がトンネルに入ろうというあたりで乗客の波が揺れた。
ふと、違和感に気づく。カーブしている?おかしい、ここは直進の筈だが……。
直後「ガコン!」という音がなり、米本は凄まじい衝撃に襲われた。
非日常へ【4両目】
気が付くとそこは狂騒の中だった。
小田井桐は激しく痛む体を無理やり起こし、周囲へ目をやった。パニック状態に陥った乗客が扉をこじ開けて電車の外に雪崩出て行くのが見える。
「なんなのよ、なんなのよもう!」
悪態をつきながら車外へ出たモギ=モギコは突如上がった悲鳴に足を止め、スマートフォンの明かりを向けた。
トンネルの暗闇の中に鮮血がパッと散る。
そこで行われていたのは『狩り』。照らされた中に見えるのはローブのようなボロ布を纏った数えきれないほどの人影。それらは手にナイフでも持っているのか乗客たちを次々に切り裂いていく。混乱の中逃げようと駆け出た男がいたが、あっと言う間に2人のローブに追いつかれ首を掻き切られ倒れた。
「逃げるわよ!」
モギコとその近くにいた乗客達は必死に電車の中に戻り扉を閉めた。
やがて外が静かになるとローブたちは電車に乗り込める場所を求めているのか周囲をウロウロと徘徊し始めた。
車内の探索【5両目】
レンシュンマオは車外へ繋がる扉の前で節棍を構え待機していた。
ローブがいつ電車に侵入してくるか分からないがーー大丈夫、通路戦なら負けない。
5両目の乗客は既に半分以下になっていた。トンネルの中だからかスマホは圏外で外部とは連絡がとれない。この状況は自分達でどうにかするしかない。
「とりあえず動ける人がいるか確認するために、他の車両パパッて見に行ってみます」
そう言いながらさっさと4両目の方に向かったのは小柴朱里だった。
ーーーーまずは残った乗客で集まった方がいいか。どうしよう。
少し悩んだあと、マオは小柴に続いた。
ミュージカル?【3両目】
「やだ、ちょっと何?だれ歌ってるの?ヤダー!」
4両目で立て籠っていたモギコは隣の車両から歌が聞こえてくるのに気づいた。
「いい歌いい歌」
とは言ったものの、この絶望的な状況にまるでそぐわない陽気な曲調に次第に憤りを感じ始める。
「こんな状況なのに、だれよ!もう」
歌の元へ移動してみると3両目は酷い有様だった。ローブに襲われるまでもなく死体の山。最初の衝撃でだろう。先頭からなにかに突っ込んだのだろうか、前に行くほど被害が大きいようだ。そんな死屍累々の中、血だらけで歌いながら踊っているこの男は何なのだろう?
「誰か動ける人いますかー?」
3両目に小柴とマオ、少し遅れて桐がやってきた。
「なに、あなた達もこの歌聞いてやってきたの?」
モギコの問いかけに小柴が困惑したように言う。
「え、なんかここだけ雰囲気すごい違うくないっすか?」
「そうよねえ!おかしいわよね!」
ようやく理解者が現れたという風に、モギコは嬉しそうに頷く。
「なんかこの状況ですごいミュージカルなんですけどどうしよう」
「嫌なんですけどもう。外にローブいたのよローブ!あなたわかる!?ローブ?」
「ハリーポッター的なやつですか?」
「そうローブ!ローブがいっぱいローブ!」
ヒステリックに連呼するモギコだったが、やばくないですか?と合わせる小柴は全くやばくなさそうに続ける。
「とりあえず、この踊ってる人誰かどうにかできないっすかね?」
「ほんとよ。わたしライダーキックぐらいしかできないわよ?」
「まあショック療法的な感じもありますしねー」
「わたし初めてよ、こんな人見るの!」
精神科医
「お客様の中に精神科医の方はいらっしゃいますか?」
小柴が大声で呼びかける。話し合いの末、ミュージカル男には専門的な治療が必要だろうということになった。もしかしたら乗客の中にいるかもという一縷の望みにかけてのことだったが、意外にもすんなりと精神科医は見つかった。
「すみませんお医者さん。この人ちょっと見てもらってもいいですか?なんか踊ってて困ってるんです」
ついにはアップテンポにタップダンスまで始めた男を指さす。
はい。では任せてくださいーーと医者が治療を施すと、男は憑き物が落ちたように動きを止めた。
「ああ、なんか凄い楽しい夢を見ていたような」
米本康太朗はようやく我に返った。どうやら最初の衝撃で全身を強く打った際正気を失い、妄走の世界の住人になってしまっていたらしい。
「大丈夫あなたほんとにー?踊り狂っていたわよ?あなた今」
「そのせいか知らないけども、体がボロボロだ」
「いやーでもいいダンスでしたー!」
褒める小柴にモギコも頷く。
「よかったわよ。ちょっと安心したわ」
「ありがとう。でも、それよりだれか……精神科医じゃない医者はいないんですか!?」
瀕死の米本は治療を求めていた。あいにく医者はいないようで乗客同士で応急手当を施すに終わったがそれでもそれなりに効果はあり、重傷だった米本と最初から貧弱だった桐はなんとか命を繋いだ。