そんなに景気がいいご時世でもないので「食いはぐれの無い職業」を望む方はたくさんおられることでしょう。
公務員やインフラ系の会社あたりが人気なんでしょうが、稀にブラックジョーク的に名前が出てくる職業があります。
それが『葬儀屋』。
人間必ず死にますからね。確かに需要は尽きないように思います。
でもおすすめできるかと問われると、昔葬儀屋で働いていた時期があった僕からすれば「そんな良いものじゃないぞ?」という感じです。
ふと振り返ってみるとかなり特殊な環境だったので備忘録がてら記事として残します。倫理的に問題のある内容なので閲覧にはご注意ください。
ハンバーグの話
『おくりびと』という映画をご存じでしょうか。
納棺師という遺体の状態を整える仕事を題材にした作品なんですが、話題になった当時この映画の影響で納棺師を志す人がもの凄く増えたらしいんですよ。給料もいいイメージでしたし。
でもほとんどはすぐに諦めた。なぜか?
遺体って綺麗にお亡くなりになったのだけじゃないんですよ。
専門学校で水死体や腐乱死体の写真を見ただけで心折れる人が続出。結局ほとんど残らなかったそうです。
さて、そんな精神的に厳しい仕事を長年勤めている人がいるのが葬儀屋なわけですが、彼らがどんな思いで遺体と向き合っているかというと何も感じていないんですよね。
腐乱死体に処置を施した直後のベテランのおばさんに話を聞いたことがあったんですが、「力加減間違えると取れちゃう(肉が)」、「ハンバーグこねてる感じ」とのことでした。
やっている内に麻痺したのか麻痺しているからできるのか。
そこのところは僕には判断できませんが、なにも食い物で例えなくてもいいだろと。
その後、お肉食べたくなったそうで焼肉に向かわれたことも合わせて報告しておきます。
鼻がもげるかと思った話
ある日「遺体を引き取って来てくれ」とだけ指示されて先輩に付いて行くと警察署に着きました。この時点で嫌な予感はしていたのですが、出てきたのは案の定腐った遺体でした。
いやね、腐った人間って見た目がグロいのもキツイんですが、何より臭いがヤバイんですよ。
超強力消臭剤(先輩談)と共に棺桶に入っていただいたのですがこれが全くの無力。窓全開の状態でも激しく臭う車内。
また帰り道はグネグネ曲がった峠道でした。カーブする度に棺桶の蓋がズレてダイレクトに香る。控えめに言って地獄です。
ようやく運搬作業を終えた僕は食事休憩の間延々とクサイツライと文句を言っていたのですが、先輩方からのありがたい言葉が「本当にメンタルに来てるやつは食事も出来ないし言葉も少ない」
おまえ素質あるよ!みたいに言われましたが全然嬉しくなかったというお話。
悲しいは作れる話
中国や台湾では泣き女という葬式の際に号泣して悲しみを伝えるお仕事があるのですが、どうやら日本にはないようです。ですが、やはり演出というものは大事であるらしく、葬儀屋ではよりデジタルな形で用意されていました。
いよいよ最後のお別れとなる出棺時にかかるBGM。これが聞くだけで涙が出てくるレベルの悲しい曲なんです。
故人と全く面識ない僕が油断すると泣きますからね。
葬儀のクライマックスを演出するのも仕事なんでしょうがインスタントな感じがどうにも冒涜的な感じがして好きになれませんでした。
仏壇を破壊した話
新調するなどして不用になった仏壇を引き取るサービスをしていたのですが、そのままの形でゴミ収集センターに持って行くとイメージが悪いのでどうにかする必要があったんです。
で、どうしたのかと言うと、仏壇が仏壇だと分からない木片になるまでハンマーでぶん殴り続けました。
なんと罰当たりな!と思った方はたぶん正常です。
会社も見られたらマズいの分かってるから暑い中シャッターを降ろしたガレージ内で作業させられましたからね。
「いいストレス発散になる」とフルスイングで仏壇にハンマーが叩き込まれた瞬間の絵面が凄かったですね。目てはいけないものを見てしまった感。たぶん一生忘れないでしょう。
遺体が飛び出た話
葬式には色んなスタイルがありますが、基本火葬の日本でほぼ必須なのが棺桶です。儀式的にも重要なのですが、遺体の運搬や火葬場の炉へ入れる際なんか単純に便利なんですよね。
その棺桶ですが、言っちゃなんですが結構チープな作りなんですよ。
作成キットを組み立てるだけのお手軽なものだったんですが、簡単に作れるだけあって耐久力よわよわなんです。それっぽい模様があるので見栄えは悪くないのですがそれもシールですからね。上手に貼るの苦労しました。
さて、事件が起きたのは霊柩車に棺桶を乗せる時でした。
棺桶はストレッチャーの上に置かれ、車内に設置されたレールに沿って押し込めば問題なく収納できるはずだったんです。
しかしその時はなぜか噛み合わず、棺桶はレールを外れてしまっていました。さらに最悪なのは霊柩車のサイドドアが全開になっていたことです。
力任せに押し込まれた棺桶はレールから滑り落ちそのままサイドドアから車外に落下。衝撃で遺体はさながらド○キーコングのように棺桶をぶち破って飛び出ていきました。
当然ながら遺族は爆ギレしてますし予備の棺桶なんか用意してるわけないんで大慌てですよ。ここまでしめやかに営まれない葬式は今後見ることはないでしょう。
以上。思い出したエピソードを書きました。
他にもまだまだ色んなことがあったんですが、飽きたのでこのあたりにしておきます。
予定も立てれない肉体労働の多い激務でしたが今となっては貴重な体験ができてよかったなと思ってます。今となってはですが。