ダーケストダンジョン
平成最後の夏、世界中のプレイヤーを発狂させたという恐ろしい実績と共に日本上陸を果たしたゲーム『Darkest Dungeon』。究極のストレスゲーとまで言われるその闇の深さはスチームのセールで安かったからという安易な理由で手を出した僕に受け止めれるようなものではなかった。誰かに伝えることで心が軽くなるというセラピーのため、ここにその記録を残そうと思う。
『ダーケストダンジョン』は簡単にいうと育成要素の強いローグライクRPGで拠点の村とダンジョンを延々往復しながらクエストをこなしていくゲームだ。徐々に村を発展させ、装備を整え、スキルを鍛えてさらに難易度の高いクエストに挑む。それだけ聞くと「よくあるやつ」なのだが、本作の肝は『ストレス』という変わったシステムにある。
▼ダーケスト=ストレス
このゲームにはダメージが2種類ある。1つは物理的なダメージ。そしてもう一つが精神的なダメージ『ストレス』だ。
ストレスはあらゆることで生じストレスゲージが溜まっていく。以下その例。
- 攻撃を受ける。クリティカルだと見ててエグいので仲間もストレス。
- 罠にかかる。
- お腹が空く。
- 部屋が暗い。
- 長い時間作業する。
というか歩いてるだけで増える。「なにを軟弱な」と思われるかもしれないが化け物ひしめく危険地帯だ。普通は行くことになった時点でハゲる。
そしてストレスゲージが満たされると冒険者は精神崩壊してしまい、発狂して仲間を罵ったり操作を無視して行動したりとバリエーションに富んだ奇行を見せる。
パーティー内にそんなやべーやつがいて他のメンツが平静を保てるはずもなく、加速度的にストレスは増して大パニックに陥るのだった。ちなみに精神崩壊状態でストレスゲージがもう一度溜まると死ぬ。一応運が良いと『徳』というプラスのバフがかかった状態に移行することもあるのが救いだが、いかに危険を排するかが重要なローグライクでそんな分の悪い賭けをしていては命がいくつあっても足りない。
そんなわけで「ストレスをいかに溜めないようにするか」という現代社会を生き抜く上での心得をそのままゲームの世界に持ち込まなければならない。なんて悲しいゲームなんだ。
▼俗物と宗教家以外に救いはない
ストレスが溜まる前に力押しでクリアするという漢スタイルで挑んだところ、低難度であればやってやれないこともなかった。光明が見えたかに思えたがダーケストダンジョンが嫌らしいのはここからである。
なんと『ストレス』の値はクエストが終わっても持ち越しなのだ。
心の傷が簡単に癒えないことは分かるが串刺しにされ巨木で殴られた体は全快するのになぜなのか……。精神崩壊して帰ってきた場合はもちろん壊れっぱなしだ。
それではストレス解消はどうするのかというと『酒場』と『修道院』、この2つの施設を利用する。
まずは酒場だが、こちら複合施設になっていて『バー』『賭博所』『売春部屋』と3つの選べる楽しさが用意されている。
肉体の歓び。
続いて教会だがこちらも同じく『回廊』『翼廊』『贖罪の間』とある。
両施設とも効果は確かであり、精神崩壊も一回クエストこなしてる間には治る。あとどちらも金はキッチリとられる。
▼世界を救うのは犬と音楽
というわけでストレスの解消は可能であるが、それは村での話である。当然のことながらクエスト中に肉体の歓びは無い。どうにか冒険者達でケアしながら潜っていくしかないのだがそこで活躍するのが犬と音楽だ。
まずは犬だが癒し効果は凄く吠えるだけでパーティー全員がリラックスできる。 回復する数値に物足りなさを感じるかもしれないが病気になるような汚物を浴びせられた辛さが数回吠えるだけでチャラになると考えると破格の性能だということが分かるだろう。
次に音楽だが戦闘中に奏でてもらうとストレスが薄れるだけでなく耐性まで上がる。国民的海賊漫画『ワンピース』の主人公・ルフィが最初期から一味に音楽家を欲していた理由を感じ取り「いらねーだろw」と思っていた自身の浅はかさを恥じるばかりである。できる男はメンタルケアをおろそかにしない。
この犬と音楽を中心に丁寧に心をケアすることで冒険者達は健やかにクエストをこなすことができる。村に帰っても酒場と修道院のお世話になる必要はないのでお金もかからない。そのままのメンツで続いてクエストに出かけることすら可能だ。ダーケストダンジョンの攻略とはストレスの攻略であり、ここにそれは成ったのである。
▼死んだらストレスもクソもない
ここまでストレスについて書いてきたがこれは罠である。
そして僕は罠にかかった愚か者だった。
犬と音楽で確かに心は癒される。しかし忘れてはならない、このゲームにはストレスとは別に普通のHPもあるのだ。
つまり、殴られたら死ぬ。
精神崩壊をさも恐ろしい絶対回避するべき事態のように書いておいてなんだが、崩壊しただけでは冒険者は死なない。冷静に村に引き返して治療をすれば戦線に復帰もできるし多少治療費がかかるだけでそこまでの痛手ではないのだ。
しかしHPはそうではない。
ゼロになった時点でデスドアという文字通り死への扉が開いた状態になり、次のダメージで死ぬ。回復すればデスドアは脱出できるが、このゲームは出血や毒という毎ターンダメージが入る状態にされることが多く、回復する間が与えられず即で死ぬことは珍しくない。そして鬼畜仕様、ダーケストダンジョンは死んだ冒険者を二度と使うことはできない。蘇生?復活?そんな優しいものは無い。
心と命、どちらを大切にするべきか分かるだろう。
ただ、実際にプレイしていると低難易度クエストだと瞬殺されないのでついストレス側のケアに目が行ってしまいがちになる。そのままの感覚で高難易度に突入してHPの回復を怠ると瞬殺され鍛えてきた冒険者を永遠に失うことになる(なった)。ちなみにこのゲームは戦闘中だろうとオートセーブだ。慈悲は無い。
▼真綿で首を絞められながら刃物を避け続けるゲーム性
何も考えずやってるとちょっと笑えないぐらい難易度が高いのでしっかり頭を悩ませてプレイしないとクリアできないゲーム。溜まっていくストレスと一瞬で消し飛ぶHPを管理しつつ、ダンジョンをどこまで潜るのか。最適解を選ぶ判断力が問われるあたりローグライクって感じなのだがとにかく心がしんどい!
突然のクリティカル連打で理不尽に死ぬしストレスに関しては運ゲー感がある。そもそもローグライク自体が上手くいかないとストレス溜まるゲーム性なのになんで追いストレスを入れてきているのか。なんの使命感だ。
「なぜ我々はこんな苦行を好んでしているのか?」
150万の英語版ユーザーに問いたい。僕には答えが見つからない。
▼クトゥルフ要素
このゲーム、名言されているものを見つけていないがクトゥルフ神話要素がそこら中にある。敵に神話生物っぽいのがたくさん出てくるのでそれを楽しみにプレイしてみるのもいいかもしれない。ストレスシステムもクトゥルフ神話TRPGの正気度の喪失を参考にしてそう。というか開発した会社は『レッドフックスタジオ』なのでまあ間違いないでしょう。